武田晋一による一刀両断
 
 プロの写真家には、仕事として写真を撮るための幾つかの宿命がある。例えば、写真は明るく撮らなければ売れにくいが、それは、ただ単にいつも撮っているシーンをそのまま明るくすればいいのではない。
 明るくて、素敵な写真を撮るためには、何かにカメラを向ける前から、そのつもりで、明るい写真を撮るのに適した被写体探し〜ポジション取り〜フレーミング・・・を考えておかなければならない。
 そして、僕も写真の世界で仕事をするうちに、いつの間にかそうした習慣が身についているので、ほとんど無意識のうちに画面の中から暗い部分を排除し、いつも被写体のバックには爽やかな緑や、気持ちのいい青空を探す。
 その結果、今では、一部のアマチュアが好むような背景を極端にズドーンと暗く落とした撮り方には全く興味がなくなってしまったが、趣味で写真を撮っていた頃には、暗い背景の写真も楽しんでいたので、写真を仕事に選んだ結果、僕が本来持っている好みや志向の中の一部は失われてしまったことになる。
 ただ、明るい写真を狙うなら狙うで、それはそれなりに僕なりの写真が撮れるので、自分が本来持っているセンスや志向を、プロの世界でやっていくために若干手直ししたと書いたら正確なのかもしれない。

 Nature Photo Y&Y の撮影を担当された吉鶴靖則さんの写真を初めて見た時、僕は、とても懐かしい思いに取り付かれた。吉鶴さんの写真が、僕が趣味で撮っていた頃の写真に、とてもよく似ているのだ。
 たとえば鳥の写真は、花鳥風月のムードの世界ではなく、鳥そのものの魅力を引き出そうとしているし、鳥の形や色や種類の特徴を大切にしている。
 そして、その鳥その物の写真を、安定した、しっかりとした構図で絵としても見せようとしている印象を受けるが、そんな考え方は、僕の好みその物だ。きっと、写真の好みや自然に対する共通の思いを持っているのではないだろうか?
 今の僕は、お金も欲しいし、鳥の写真を撮るときには売れそうな花鳥風月をすぐに頭に思い描くが、何だか下世話になったな〜などと考えさせられた


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