武田晋一による一刀両断
 

 自然写真などという職業に就くものは、誰しも一度くらい、
「ごくつぶしやなぁ」
 と後ろ指をさされたことがあるのではなかろうか?
 僕は、面と向かってまでそう言われたことはないが、相手の態度からそれを感じることは決して少なくない。
 僕自身は現実にごくつぶしであり、ごくつぶしで結構だと思う。だが、生き物の写真を撮っていったい何の役に立つのだろう?と、僕は僕なりに考えることになる。
「写真を通して、命の大切さを伝える。」
 という決まり文句があるが、まるで政治家のような回答であり、僕の好みではない。
 その前に、自然写真は、必ずしもそんな結果に結びつくわけではない。
 例えば、誰かが見応えのある写真を発表すると、それを真似たいがために、加熱し過ぎたカメラマンが写真と同じ生き物に殺到し、生き物を追い回し、時には痛みつける。
 一人一人の行為に大した悪影響ではなく、誰かが個人が悪いわけではないケースでも、アイドルの追っかけのような集団を想像してもらえればいい。
 多くのアマチュアが、
「写真を通して、命の大切さを伝える。」
 という大義名分を掲げるが、その実は、しばしば、いい写真を撮りたいという自己満足が目的である。
 一枚のすばらしい写真がそれを煽る悪影響も、決して無視できないのである。
 
 僕は、その答えを、和田剛一さんの野鳥写真に求めた時期がある。
 和田さんの写真の特徴と言えば、豊かな表情であるが、それは被写体を脅かしては決して撮れないのである。多くのアマチュアが、
「和田さんと同じ写真を撮りたい!」
 と思えば思うほど、相手に優しくならなければ撮れない。
 そこに1つの答えを見るのである。 
 

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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 Goichi's Birds


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